ファンドの運用によってどんな投資を⾏うことができるのか
投資信託にて投資を行う投資家にとって、投資しようとする投資信託がどのような運用を行い、その運用によってどんな投資運用を⾏えるのかを知ることは投資判断をするうえで非常に重要です。
「日本国内の株で運用!」と言った場合、その意味は広く、くわしく知りたい場合は、いくつかのポイントで明確化が可能です。
かりに、日経平均株価の銘柄だけを投資対象とする・東証一部の全銘柄を投資対象とする・小型株も投資対象とする・未公開株も投資対象とする・特定の業種だけを投資対象とする、といった違いは「投資対象」を明らかにしてくれます。20銘柄程度で運用する/100銘柄程度で運用する/1,000銘柄以上で運用する、といった違いも「組入銘柄の分散投資」を明確化してくれます。
インデックス運用とアクティブ運用の違い
どのように運用するのかという運用方法を明確化してくれるのが、インデックス運用とアクティブ運用のちがいです。
運用方法には大きく分けて「インデックス運用」と「アクティブ運用」があり
「パッシブ運用」と「アクティブ運用」があります。パッシブ運用はその名の通り「受動的に」運用するもので、特定の指数の構成と同じ組入れを行う、特定の20銘柄に5%ずつ均等配分する、といった運用を行います。
パッシブ運用の代表インデックス運用
「インデックス運用」というのはパッシブ運用の代表例で、基本的な考え方としては特定の指数の構成と同じポートフォリオで、その指数に連動する投資成果を目指すというものです。
日経平均株価に連動する投資成果を目指すファンドの場合、基本的な考え方としては、日経平均株価の構成と全く同じポーフォリオにし、日経平均株価が3%上がればファンドも3%上がり、日経平均株価が2%下がればファンドも2%下がる、ということを目指します。
日経平均株価がA社株5%、B社株3%、C社株7%・・・という構成比率になっていたとすれば、全く同じ比率でポートフォリオを組めば、同じような値動きとなるります。
インデックス運用を行う場合でも、指数と完全に一致したポートフォリオを組めない場合もあります。指数構成銘柄数が非常に多くてコストがかさんだり、流動性の低い銘柄が含まれていて適切な価格や費用で売買することができなかったなどです。
指数と全く同じポートフォリオ構成にしても指数の動きとは一致しない
インデックス運用はパッシブ運用の代表例で、基本的には特定の指数の構成と同じポートフォリオを組み、その指数に連動するものとご紹介しました。
しかし、実際の運用になると、指数と全く同じ構成のポートフォリオを組んでも、その投資成果は指数とは一致しません。それは、ファンドの運営にはコストがかかるからです。
理由は大きく分けて2つあります。
①ファンドの運営に携わる委託会社(運用会社)・受託会社・販売会社に⽀払われる「信託報酬」や販売会社に⽀払われる「販売⼿数料」で、「費用」と「報酬」の性格を持つものです。
②純粋に「費用」という性格のもので、株式などの取引を⾏う⼿数料、債券取引や外国為替取引を⾏うコスト*、送⾦費用、税⾦、投資証券の保管コスト、ファンドの監査費用、などです。
指数にはこれらのコストが含まれないので、指数と全く同じ構成のポートフォリオにしても、これら2つのコスト分だけ指数に負けていくことになります。
*債券取引や外国為替取引のコストは取引価格に含まれるため「損益」と認識されてしまいますが「費用」の性格を持つものと⾔えます。
価格指数とトータル・リターン指数
指数は「価格指数」「トータル・リターン指数」の2種類があります。
「価格指数」は純粋に価格の推移だけを表すもので、⽇経平均株価やTOPIX、ダウ工業株30種平均、S&P500などがこれに該当します。
「トータル・リターン指数」は価格の動きだけでなくて、株式の配当収⼊や債券のクーポン収⼊などのインカムゲインを含めたトータル・リターンを指数化したものです。
⽇経平均株価やTOPIXにもインカムゲインを含めたトータル・リターン指数(配当込み指数)があります。
⽇経平均株価と全く同じ構成のポートフォリオを組むと、ファンドのリターンは、「⽇経平均トータルリターン・インデックス」という配当込み指数から、前述の2つのコストを差し引いたリターンとなります。
価格指数である⽇経平均株価に対しては、配当収益とその再投資効果分だけプラスとなり、コスト分だけマイナスとなります。
配当のプラス分が、コストのマイナス分より大きければ、リターンは価格指数である⽇経平均株価を上回る投資成果となり、マイナス分がプラス分より大きければ⽇経平均株価を下回る投資成果となります。
指数自体の特性を知る
インデックス運用は指数に連動した投資成果を目指すため、指数自体の特性を知ることが⼤切です。⽇本の株式に投資する場合には、⽇経平均株価・TOPIX・JPX⽇経インデックス400などの指数があり、それらの違いが成果の違いに影響します。
TOPIXのように時価総額加重平均指数を選んで、時価総額の⼤きな銘柄にたくさん配分するのがいいのか、⽇経平均株価のような価格平均指数を選んで、価格の高い株式(値嵩株)にたくさん配分するのがいいのか、JPX⽇経インデックス400を選んで、過去3年の業績や利益率や流動性などを基準にした配分にするのがいいのか、を考えなくてはなりません。「市場全体の動きを表す指数」と⾔っても、その「表し方」は指数ごとに異なり、「市場全体の動き」とするのかは、⾃分の考えに合ったものを選択する必要があります。時価総額の35%を1社が占めるような偏った市場で、この銘柄に35%配分するのが「市場全体の動き」を表すことになるのか、時価総額に関わらず全銘柄の単純平均をもって「市場全体の動き」とするのか、「分散」の観点から1銘柄当たりの配分に上限を設けた配分をもって「市場全体の動き」とするのか、といったことも指数の選択により変わってきます。
債券投資におけるインデックス運用の注意点
株式投資の場合と債券投資の場合では、指数の考え方は別に考えてみる必要があります。多くの債券指数は時価総額加重平均で算出されています。こうした代表的な債券指数には時価総額の⼤きな債券ほどたくさん組⼊れられることになります。
債券の時価総額が⼤きいということは借⾦が多いことを表します。このこと⾃体は負債額あるいは債券の発⾏額が他の発⾏体よりも多いことを示すだけで、負債額や債券の発⾏額が発⾏体の返済能⼒や収⼊・収益と⽐べて多いかどうかを示すものではありません。
他の発⾏体よりも借⾦額が多い発⾏体にたくさん投資するのが債券投資を⾏ううえで良いアプローチかどうかは考えの分かれるところでしょうか。
いろいろな国の国債に分散投資する場合には、債券の発⾏額が他の国よりも多い国の国債をたくさん組⼊れるのは、良い手法でしょうか。この質問に対する共通の答えはないのではないでしょうか。
自分のお考えはどか。ほとんどの代表的な指数が時価総額加重で計算されている債券投資において、指数に連動した投資成果を目指すというのは、ほぼイコールで債券の発⾏額の多い発⾏体ほどたくさん配分して投資する、ということになるのです。
大事なことは、⾃分の考えに合致したファンドを選び運用する、ということです。
指数を上回る投資成果を目指す運用! 上回る投資成果を目指さない運用!
「アクティブ投資」は「指数を上回る投資成果を目指す投資」と説明されることが多いですが、「パッシブ投資」と「アクティブ投資」という対比で考える場合、あるいは、「パッシブ投資以外のものをアクティブ投資と一括りにして語られることが多い」ことを鑑みると、アクティブ投資=指数を上回る投資成果を目指す投資、という説明は正確ではありません。
アクティブ投資には「指数を上回る投資成果を目指す投資」と「指数を上回る投資成果を目指さない投資」があり、一部例外ではなく、むしろ主流になってきています。
指数を上回る投資成果を目指す投資
「指数を上回る投資成果を目指す投資」とは、特定の指数をベンチマーク(上回ることを目指す対象となる指数)に設定し、ベンチマークを上回る投資成果を目指します。
例えば、「TOPIX配当込み株価指数」をベンチマークとした場合、ポートフォリオの構成を、ベンチマークに組⼊れられている約2,000銘柄を指数の構成比率通りに「しない」ことで、ベンチマークを上回る投資成果を目指すというような運用を⾏います。
ポートフォリオを組むアプローチとしては、ベンチマークを上回るようなパフォーマンスが期待できるものだけを選ぶ、そうした銘柄への配分をベンチマークの配分よりも増やす、反対に、ベンチマークを下回るリターンになると予想される銘柄を組⼊れない、あるいはそうした銘柄への配分をベンチマークの配分よりも減らす、といったものがあります。
ファンドのポートフォリオ全体のリターンが「どのくらいの期間で」ベンチマークを上回る/下回る投資成果となったかを判断する場合、データの計測期間によって成否の評価が大きく分かれることに注意が必要です。
また、3年から5年の期間で上回る/下回ることを想定して投資し、1ヵ月や6ヵ月といった異なる期間のリターンでその評価をすることもあまり適切とは⾔えません。
投資成果を予⾒できない以上、アクティブ投資の成果がゼロと予⾒することもできない
「指数を上回る投資成果を目指す運用」についてご説明しましたが、投資は未来に向かって⾏うものであり、将来の投資成果を予⾒することはできません。ベンチマークを上回ることを目指して投資しても、実際に上回ることができる保証はありません。投資家側から⾒れば、どのファンドがベンチマークを上回るかを予⾒することもできません。また、10年間の通算で⾒ればベンチマークを⼤きく上回る投資成果をあげたファンドに、そのうちの半年間だけ投資した投資家の投資成果がベンチマークを上回るとは限りません。
もしもある市場で過去10年間、「指数を上回る投資成果を目指す運用」を⾏うアクティブファンドの7割がベンチマークを下回る投資結果になっていて、ベンチマークを上回ったのが3割のファンドだけだったとしても、今後の10年間でも7割のファンドベンチマークを下回る投資結果になると予⾒することはできません。5割のファンドが上回るかもしれませんし、9割のファンドが上回るかもしれませんし、1割のファンドしか上回らないかもしれません。10年間ベンチマークを上回る投資成果をあげ続けていたファンドがその後もベンチマークを上回り続けるか分からないように、10年間ベンチマークに下回り続けていたファンドがその後も下回り続けるかも分からないのです。
『「指数を上回る投資成果を目指す投資」を⾏うアクティブ投資の成果は、リターンがベンチマークをどのくらい上回ることが出来るかということなので、その成果は予⾒することができず、また、どのファンドがベンチマークを上回るか予⾒できないのだから、コストが安いインデックスファンドのほうが優れている』とはいえません。
正解となる答えがあるか
では、インデックス投資と「指数を上回る投資成果を目指す運用」を⾏うアクティブ投資でどちらが優れているのか、どちらに投資するのが良いのには、万人にとっての正解があるのか。あるいは、非常にシンプルな二者択一で、(1)指数のリターンからコスト分を差し引いた分だけ負けるもの、(2)指数のリターンに対してコスト控除後で勝つか負けるか引き分けか分からないもの、があったとして全ての人にとって正解となる答えがあるでしょうか。
⼤切なことは、各投資家個人が⾃分の考えに合ったものを選ぶことです。
指数を上回る投資成果を目指さない投資
「アクティブ投資」には、「指数を上回る投資成果を目指す投資」だけではなく、特定の指数を上回る投資成果を目指さない運用もあります。「特定の指数を上回る投資成果を目指す」以外の目的を掲げる運用とも⾔えます。
⽇本の株式に投資する場合、投資家のニーズとしてあるのは 「TOPIX配当込み株価指数」 に連動した投資成果か、上回る投資成果のどちらかだけでしょうか。「変動幅の小さい銘柄を選び、リスクを抑えて⽇本の株式に投資する」、「今後の成⻑分野と考えられる企業群に限定して⽇本の株式に投資する」、「破綻懸念のある、財務体質に問題のある企業群は外して、⽇本の株式に投資する」、「特定のテーマに該当する企業群に限定して⽇本の株式に投資する」、「割⾼な銘柄や流動性の低い銘柄を除外して⽇本の株式に投資する」、こうした投資に対するニーズも存在するはずです。
インデックス投資のメリット
インデックス運用のメリットとして代表的なものを挙げますと、
・トータル・リターン指数のリターンからコスト分を差し引いたリターンが期待できる
・アクティブ運用を⾏うファンドと⽐べてコストが安いものが多い
・ファンドごとの⽐較が容易で、投資するファンドを選ぶのにあまり労⼒や時間がかからない
・ファンドごとのリターンの違いが少ない
といった点があります。これらについては解説不要かと思います。最⼤のメリットはなんと⾔ってもコストの安さです。
インデックス投資のデメリット
インデックス運用のデメリットとしてはどんなものがあるでしょうか。
トータル・リターン指数を上回るパフォーマンスは期待できないという点が挙げられます。インデックス運用で期待できるリターンはトータル・リターン指数からコストを差し引いたリターンであり、トータル・リターン指数を上回る投資成果を得ることはできません。
投資しようとする市場で、どの指数に連動した投資成果を目指すファンドを選択するのか、という点は残り、指数の選択によって投資成果に差が⽣じるという点です。例えば、⽇本の株式に投資する場合、⽇経平均株価/TOPIX/JPX⽇経インデックス400/MSCIジャパン/Russell Nomura Primeといった指数の中からどの指数に連動したインデックスファンドを選ぶかで、投資成果に差が⽣じてしまいます。また、債券投資における時価総額加重平均で運用する場合の問題もこれに類する問題です。
指数が存在しないような投資、指数で表せないような投資、インデックス運用が⾏えないような投資に制限がかかってしまうという点です。「インデックス運用とアクティブ運用のちがい(6)」でご紹介したような投資を⾏いたい場合、そうした投資を表すような指数が存在しなければインデックス運用はできません。
指数に連動した投資成果を目指すための運用方法が、それを逆手にとったような取引をされる可能性をはらんでいるという点です。例えば、指数の銘柄⼊れ替えや構成⾒直しのタイミングで、それがあらかじめ分かっている場合、先回り投資をして利益を得ることが、市場や指数によっては可能になることがあります。そうした取引によって得られる利益の⽣じる相手方はインデックス運用を⾏う投資家ということになります。 次回はアクティブ運用のメリットとデメリットについてご説明します。
アクティブ投資のメリット
アクティブ運用の主なメリットとして、以下が挙げられます。
・ 「指数を上回る投資成果を目指すアクティブ投資」では、コスト差し引き後でトータル・リターン指数を上回る投資成果を得られる可能性がある
・ 「指数を上回る投資成果を目指さないアクティブ運用」では、指数が存在しないような投資、指数で表せないような投資、インデックス運用が⾏えないような投資が実現可能
・ 特定の指数に縛られることなく、時価総額の小さな銘柄や指数に含まれないような銘柄に投資をしたり、財務上の問題などを抱えた銘柄を外して投資する、投資環境に応じて現⾦⽐率を⾼めたりリスク低減をしながら投資する、といったフレキシブルな運用が可能
アクティブ投資のデメリット
一方で、アクティブ投資には以下のようなデメリットがあります。
・ インデックス投資と⽐べてコストが⾼いものが多い
・ 「指数を上回る投資成果を目指す運用」を⾏っていても、コスト差し引き後のリターンがトータルリターン指数を下回るファンドもある。
どのファンドがトータル・リターン指数を上回る投資成果をあげるか予⾒できない。計測期間によっては指数を上回る投資成果をあげたファンドに投資したにも関わらず、個々の投資家の投資期間によっては指数を下回る投資成果となる場合もある
・ インデックス投資と⽐べてファンドごとのリターンの違いが大きい
インデックス投資にも、アクティブ投資にも、それぞれメリットとデメリットがあります。
インデックス投資とアクティブ投資のどちらが優れている、どちらが正解といったことはなく、投資家個人が双方のメリット・デメリットを自分なりに理解し、⾃分の考えに沿ったものを選ぶことが大切です。
投資判断は最終的には、個人の責任になります。
より良い知識を身につけ、投資判断をしていきましょう。
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